main やっぱり愛しかないでしょ≫ 1 2 3 4 6
5.
卒業式が終わって、入試を受けた。
第一志望だった屑宵大学の教育学部に無事合格して、
俺はあのただっぴろい実家にへと戻っていた。
姉貴がアメリカから日本に戻ってきていたけれど、
親父の仕事を手伝っていてほとんど家にはいなかった。
また1人か。
秋史とも大学は離れてしまって、会う機会がなかった。
大学に入ってから、俺は女にはモテた。
でも俺に人を愛する資格はないんじゃないかと思ってしまう。
咲也にあんなことをしてしまった俺は…
いつも頭に浮かぶのは咲也の笑顔だ。
俺にくっついてきた咲也だ。
「やっぱ、好きだったんだよな。咲也のこと。」
秋史を想っていた時よりもずっと強い想い。
もう伝えることのできない…想い。
俺、一生恋愛できねぇーかも。
そんなことを考えていたら、机の上に放り投げてあった携帯のバイブが振動した。
ディスプレイには、[奈津原 秋史]と表示されている。
なんだろ。電話かけてくるなんてめずらしい。
そう思いながらも電話に出るとなんだか秋史はあせっていた。
「なんでそんなにあせってんだよ。落ち着けよ。」
そう言って笑うと「バカやろ!朝臣だって今から言うこと聞いたら…」
秋史の続けた言葉は、信じられないことで。
俺は携帯を持っている手が震え始めるのを感じていた。
ピンポーン。
そんな俺の心情を知ることもなく、来訪者を知らせるチャイムは明るく鳴り響く。
俺は気持ちを落ち着けるために深く深呼吸をした。
「どちらさまですか?」
いつの間に降りだしたのか雨が降っていて、
ドアの内側から来訪者の名前を尋ねるけれど答えは返ってこなかった。
少し不審に思いながらも俺はそっとドアを開けた。
「お前…」
突然の雨にびしょぬれになってしまったらしい来訪者は髪をかきあげながら笑って言った。
「ただいま。」
雨に濡れるのもかまわず俺はそいつに抱きつきながら言った。
「おかえり。」と。
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