main やっぱり愛しかないでしょ≫ 1 2 4 5 6
3.
「朝臣っ!」
いつものごとく俺を呼ぶ遠くの声。
なにが楽しいのかヘラヘラと笑って。
「朝臣、今日の放課後ヒマ?ヒマだったらさぁ…」
「いいかげんにしろよ!」
嬉しそうに話しかけてくる咲也に、俺は異常にいらついていた。
「俺はお前にみたいな奴、大嫌いなんだ。うっとおしいからどけよ。」
周りがシーンとなった。
俺は歩き出す。
―――また、平穏な毎日がやってくる。
あれから咲也とは目もあわさなくなった。
クラスメイトも文化祭の前の様に、俺には話しかけてこない。
それが俺の望んでいたもの。俺の普通の生活。
「奈津原〜!けいちゃんが来てるよー!」
「なんだよ、そんな大声で呼ぶなって!」
最近、秋史は隣のクラスでかわいいと人気の圭佑(名字は知らない)って奴と仲がいい。
いつも一緒にいる。
俺だけにだと思っていた、優しい笑顔を圭佑に向けている。
ちくり。と心が痛い。
友達をとられた感じがして…
「奈津原ってさ、けいちゃんと付き合ってるんだろ。いいよなぁ〜、うらやましい。」
「けいちゃん、かわいいしなぁ。なんたって素直だし。」
クラスメイトの声を聞きながら、廊下にいる秋史達をちらりと見てみた。
2人は本当に仲よさそうに話しながら、さりげなく手をつないだりしている。
圭佑はニコニコと笑いながら、秋史の耳元でなにか囁いた。
もう、見たくない!
俺は自然に見えるように、秋史達に顔をそむけながら教室を出る。
友達は…もういらない。
「勝手な奴、俺って…。」
秋史を誰にも取られたくないなんて。
ちゃんと人を好きになったことがないからわからないけれど。
これは恋愛にも似た感情なのかもしれない。なんて思ってしまうほどだ。
ホントに大事な友達。
そう思ってるのは俺だけなのかもしれない。
「1人か。」
そういえばいつも家では1人だった。
両親は仕事人間で、姉貴はアメリカの学校に通っていたから。
『寂しい』なんて言えなかった。
広い部屋で1人きり。
それが当たり前だったから。
「どうかしたのか?」
声のほうを見上げると秋史が心配そうな顔で立っていた。
「急に出てくから心配になって…捜してた。」
いつもの様に秋史はまぶしいくらいに笑う。
「心配…してくれたんだ。」
「当たり前だろ。友達なんだし。」
座り込んでいた俺に手を差し出しながら言う秋史の言葉が痛い。
「…そうだよなぁ〜。『友達』だもんな。」
無理やりにっ。と笑うと秋史の差し出した手をとった。
あったかい秋史の手に触れただけで、跳ねあがる胸の動悸を隠して。
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