初触





 だってさ、知らなかったんだよ
 あの子のことがこんなにも気になるなんてさ、
 可笑しいと思わない?
 笑っちゃわない?

 オレ、27よ
 男なわけよ、それであの子もオトコなわけで
 性別はきっちりかっちりと、女じゃなくて男
 
 同性でしかも、一回りも違う年齢のあの子に性欲を感じちゃうオレって
 世間一般の眼から見て、

 どーなの

 ほんと
 可笑しいと思わない?
 笑っちゃわない?


 これも愛と言えるんだろうかね…?


          性欲という愛…??






    ++初触〜茎〜++  03






 宿屋の豪奢な飾りとは反対に室内は落ち着きのある調度品でまとめられていた。
 2階部屋ということもあり、部屋の奥にある窓から外を眺めればきっと絶景が待っているのであろう。

 しかしそれも今は厚手のカーテンによって重く閉ざされていて、眺めることは出来なかった。

 依頼人によって用意された部屋に着いたナルトを除くカカシら第七班は、身体の疲れを休めるでもなく、身体の汚れを取るでもなく。はぐれてしまったナルトの行方について話し合っていた。


「あれだけの雪崩だもの。…きっと遠くにまで流されちゃってるわよ」
 
 座敷に座り込んだサクラは口を尖らせ、カカシに言った。

 しかし、

「先生?」

 返事を返さないカカシを不思議に思い、見ると自分のほうを見ず室内ばかりに目を遣っている。
 サクラはカカシに相手にされず一人喋っていたことに気付いて頬をムッと膨らませた。

 カカシはそんな様子のサクラに気付いた様子もなく、ただぼんやりと窓を見つめ続けていた。


「先生っ!」


 再度怒ったふうに呼びかければ、やっとハッとしたようにカカシは目を瞬かせ、漸く俯くサクラを見た。
 
「ああスマン、サクラ。ちょっと考えことしてた」
「…先生ってばこんな時にどんなこと考えてたんですか…?」
「ん〜…、ちょっとねぇ」

 カカシは眠たげな目を更に垂らして渋るように相槌を打った。

 そして、
 
「いっそのこと放っておこうか…?」

 とんでもない発言をするカカシにサクラは顔を上げる。

「…先生?」
「だって。ナルトってば冬眠で眠ってた熊を起こすは、
それが原因で雪崩を起こすはで全然役に立っていないじゃナイ。
それどころか皆に迷惑をかけるし心配もさせてる。少しばかりのお仕置きだと思えばいいデショ」

 ねっ?と言って笑顔で提案するカカシに最初目を見開いていたサクラだったが、
 言葉の意味を読み込むと、ハッとしたように声を荒げた。

「先生っ!」

 バカなことは言わないでっ、と勢いよく噛み付いてくるサクラにカカシは、

「ははっ。嘘だよ〜。まさかそんな事するワケないだろう。いくらなんでもこんな極寒の地じゃナルトが死んじまう」

 顔を真っ赤にして大きな声を上げたサクラにカカシはニッコリと笑って、
 サクラのその桜色の頭を撫でた。

「もうっ。カカシ先生の冗談って笑えないんだから、二度とそういうこと言わないで下さいっ」

 むくれるサクラはカカシを一睨みし、立ち上がった。

 室内にある電気だけでは暗いと感じ、閉めていたカーテンを開ける。
 途端に太陽のしろっぽい薄い光が射し込み、僅かに室内が明るくなった気がした。

「…フン…っ」

 射し込む光に目を細め、サクラと同じように座敷に上がったサスケは先程の二人の遣り取りに、鼻を鳴らした。バカバカしいとでも言うかのように。



 サスケは分かっていた。
 カカシの嘘が。
 サスケは知っていた。
 カカシの気持ちを。


 サスケは先日の任務中に見たカカシの眼とその視線の先にあるものに愕然とし忘れられないでいた。


 その眼の意味はサスケがナルトに向けるものと変わりはしないのだろう。
 違うと否定されようが、それが語る想いは言葉よりも雄弁なものであった。
 そうでなければ一体誰がああいう眼で他人を見るというのだろう。

 何かに飢えて欲しがる危険な眼差し。
 腹を空かせ、獲物が早く自分の所に堕ちてこないかと期待に胸寄せ、ぎらぎらとした目付き。


 それを見た瞬間、サスケはゾクリとしたのを覚えている。
 そして同時に燃えるような苛々とした気持ちも。


「フ、ン」

 もう一度苛立つように鼻を鳴らす。
 きっとこの男、カカシは真っ先にでも捜しに行きたいはずだ。ナルトを。
 苛々する気持ちをそのまま乗せてカカシを見上げれば、視線に気付いたのだろうカカシがサスケを見、ニヤリと笑った。

「!」


―――こいつっ…!?

 厭な笑みにサスケは思わず立ち上がって詰め寄ろうとした。
 が、カカシの声によって先手を取られそれは阻まれる。

「悪いがサスケとサクラはココに居てくれ。オレはナルトを捜しに行ってくる」


 カカシの言葉にサスケは眉を寄せた。

やっぱりな

 ある意味そう言い出したカカシに納得をしたサスケは半眼でカカシを睨み返した。
 しかしナルトの事が心配で納得の出来ないサクラはカカシに反論する。

「えっ、何でよ先生。私たちも一緒に捜したほうが早いでしょ?」
「ん〜?この山の中でしかもただでさえ気配が掴み難いっていうのにお前らも迷子になっちゃ、意味がないだろ。だから、お前らはココで待機っ」

 言い含めるように言葉を放つカカシ。

「えぇ〜っ!?」

 途端にサクラからの不満げな声とサスケの何か含みのある痛いくらいの視線に、カカシはくるり、と踵を返した。
 そのまま部屋を出て行こうとするカカシの背中にサクラの非難する声が掛かってきたがカカシは敢えてそれを無視し、足早に宿の出口へと向かった。

 が、部屋を出て数歩。
 カカシはふいに立ち止まった。

「何?待機って言ったデショ」


 後ろは振り向かず、カカシは背後に言葉を投げかけた。


「……アンタ。アイツを見つけてどうするつもりだ」

 少しの沈黙の後返ってきたのは、サクラとは違う声変わりしたトーンの少し高い声。


「どうするって、ココに連れてくるだけだよ?」

 これまた振り向かずにカカシは答えた。

「…それだけか?」

 しつこく訊いてくるサスケにカカシは軽く溜め息を漏らした。
 ゆっくりとカカシは振り返る。


ホント、勘の鋭さには参るね

「それだけだよ?他に何があるっていうの、サスケ」


「…………別に。
 アンタなら何かしてもおかしくないからな」
「ひどいねぇ〜。オレってそんなに頼りなさそうに見える?」
「頼りがあるだとか、頼りないだとか関係なくアンタは信用がイマイチ出来ない」

こと、ナルトのことになると

 最後の言葉飲み込んだが、カカシには通じたのだろう。
 サスケの含んだ物言いにカカシの目が細められる。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 暫しの沈黙が続く。




 その沈黙を先に破ったのはカカシだった。



「まっ。オレは何もしないよ。だから大人しくココで待ってなさい」


 じゃ、と言って踵を返すカカシにサスケは何も言わずただその背中を見送りとは程遠い強い眼差しで見ていた。





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作者余談・・・
ちょっと文章おかしいところあったんだで、お直ししました。
話の展開を早く進めたくて適当に書くもんじゃあありませんね・・・・・・。というか時間かけ過ぎなんですよね・・・。
私って。ごめんなさい。