初触
白い白い、ふわふわ
冷たくあったかいそれは、素肌に解けて沁みこんでいく。
綺麗過ぎてせつないそれはココロを包んでいく……
―――
皆は、何処だろう…
++初触〜茎〜++ 02
「先生、見つかった?」
不安げな声にカカシはゆるく首を振った。
「そう…」
サクラは頭を項垂らせ、声のトーンを下げた。
まったく、いつまでたっても人騒がせなやつである。ナルトという少年は。
ナルトといると何かしら騒動が起きるのだ。しかし同じようなコトが度々起きる
といっても、いつもはこんな風に心配するほどの大事にはならなかった。
元気が有り余って、意外性NO.1だというコトが解っていも、今回のことはナルトを信じて帰ってくるのを待つことが出来なかった。
何より、今回の任務は夏の避暑地として名高い土地の近辺調査である。
そしてここ、避暑地へやってくるある大名へのよからぬ画策が水面下で行われているという、情報を得てのことであった。
これは今回に限ったコトではなく、避暑地には火の国の大名や国を代表する金持ちやらが沢山訪れるため第一に彼らの安全を確保しなければならない。
よって大名等を狙う小悪党や他国の忍者がいたとしてもおかしくないわけで。
ナルトら火影忍者の登場なのである。
しかし、
下忍が行うモノとしては少々早い内容の任務だったが、どうしても!といって聞かなかった人物が一人いたので仕様がない。
が、
「……ウスラトンカチがっ」
どうしても!と言っていた本人がどうしようもなくなっていては意味がないではないかっ。と、サスケは心の内でナルトを叱咤した。
「ナルト…、どこいっちゃったんだろ…」
その隣、サクラは以前項垂れたままナルトの安否を気遣っていた。
それらを傍らで聞いていたカカシは己らの行く末に暗雲が立ち込めているような気がして、小さく溜め息をついた。
「ホント。なにやってんだかねぇ〜、アイツは」
* * * * * *
白く厚い雪で覆われた夏の避暑地として最も名高い宿、雪永荘。
そこは歴史深くから、多くの偉人先人たちに親しまれ、利用されてきた。
カカシ率いる七班は調査をする間依頼を頼まれた大名の計らいでここ、雪永荘で暖をとることになっている。
高価そうな調度品に、きっちり宿の隅々まで手入れをされている感のあるこの宿ははっきりいって、任務終了とともに手に入る報酬なんかに比べ物にならないだろう。
行方不明のナルトを捜しに行かなくては、と心配していたカカシら三人は宿に入った途端、そんな考えは一瞬ふっ飛んでしまっていた。
先の起った思わぬアクシデントでナルトの行方が分からなくなっていたが、真っ白な銀世界に気配が掴み難くなっている。
だから一度宿に入って態勢を整えようと提案を挙げたのは、
このまま闇雲に捜していても、寒さと疲れでこっちが参ってしまうと判断したカカシによるものである。
「…」
「…」
「こりゃ、まいったね。オレたちには場違いだな」
カカシはすぐ下で固まっている二人を見、周りを見回して言った。
いかにも忍者という格好の為か、高給取りの彼らには異様と思えるのだろう。
好奇の眼や不審そうな視線で一斉に此方に向けている。
一種の圧迫を感じたサスケとサクラはごくりっと生唾を嚥下した。
カカシはそんな様子の二人を見、はははっと苦笑いをした。
―――
さっさと、記帳してこの場を退散するか。
「サスケ、サクラ。少しココで待っててくれ。すぐに戻ってくるよ」
任務期間中の荷物がぎっしりと詰まった布袋を肩からおろすカカシの呼びかけに、二人はゆっくりと頷いた。
忍び特有の足音のしない足取りで宿の入り口近くにあったカウンターに着く。
カカシはあらかじめ荷物から抜いておいた一枚の紙切れを取り出すと、目の前にいる身なりのいい男に差し出した。
「この人から、この宿にって、紹介があったんだけど?」
「あっ、……は、はいっ。すいません、少々…お待ちくださいっ」
「ん、よろしくね〜」
カカシから渡された紙を握り締め、男は奥の部屋へと消えていった。
数分後、男は異様に恰幅のいい中年の、紳士とはかけ離れた容姿の男を連れ立って現れた。
身なり格好、そして態度の表れからこの宿の主人のようである。
「ようこそいらっしゃいました。
彼(か)の方のご紹介でいらした方々でございますね?ワタクシ、雪永荘の主人を務めておりますイタミと申します。以後お見知りおきを」
イタミと名乗る主人は恭しそうに手を組み、挨拶をするとカカシの顔を一瞥した。
周りの客が見せるほどの不躾な視線ではないが、眼差しから読み取れる意図はそれらとなんら変わりがない。
カカシは挨拶もそこそこに、それを軽く受け流す。
「さて、彼の方様からは事情は聞いております。
ワタクシめらも何かお手伝いできることがあればなんなりと仰せつかされませ」
深く倒した頭(こうべ)を起こしながら、主人のイタミはそういえば。と口を窄めて付け加える。
「さきほど、大きな轟音がしまして。
はて、雪崩でも起ったのかもしれません。お出かけの際にはお気をつけ下さいませ。この時期には珍しいことではありませんので」
「はっ…、…はは」
男の親切にコトの事情を知るカカシは乾いた笑いしか返せれない。
「では、お部屋にご案内いたしましょう」
主人が男に目だけで合図をするのへ、カカシは首を振った。
「それには及びません。
部屋の場所さえ教えて下されば自分たちで部屋まで行きますので。
それにここへは遊びに来たんじゃあない。我々は任務できたんです。気遣いは無用」
「はあ、そうですか…。そこまで仰るのなら」
主人は何処かほっとしたような、残念そうな視線だけを残し、カカシに部屋番号と大まかな位置を教えると、奥へ戻った。
「おまたせ、さあ。荷物を置いたらナルトを捜しに行くことについて話をしよう」
カカシは安心させるようににっこりと笑った。
* * * * * *
―――
寒い…
―――
みんな、どこだってばよ
薄れゆく意識の片隅で、ナルトは任務の途中で別れてしまった仲間のことを思っていた。
大好きなラーメンのことも勿論考えたが、今となってはそれは空腹を刺激するだけでしかない。
―――
アレってば、なんなんだったってばよ…?
ナルトはカカシたちとはぐれてしまった原因となるものを考えていた。
白くて、大きくて、五月蝿い轟音と冷たい感触。
その全てが同時にナルトたちに襲った。
アレは丁度、騒ぐナルトの口をカカシが堪り兼ねて塞いだ直後だった。
騒ぎ立てる声に雪の中で微睡んでいた獣が目覚めてしまったのだ。獣は己を目覚めさせた張本人を見るけるやいなや一直線に向かってき、獣はその巨体を揺らしてナルトたちに一気に襲い掛かった。
それによって起こる大きな声。大きな物音、振動。
図らずもナルトはアレを引き起こす要因を作ってしまったのだ。
そして、不測の事態に気付いた時には遅く、アレは一瞬のうちにナルトらを飲み込んでしまっていた。
―――
みんなは無事なのかな……オレってばドジだから…
―――サクラちゃんの注意に応えるのが遅くなっちゃったてばよ
今のナルトにも分かる。
みんなが危惧していたことが。
何故、物音をさせてはいけないのか。
何故、大声を出してはいけないのか。
何故、騒いではいけないのか。
雪解けの季節に入りかけているこの時期は、そのどれもが大きな自然という災害を引き起こす、引き金となっている。
その引き金をナルトは無知という弾丸を込めて、引いてしまった。
―――
…ああ、もう。オレってばバカだ
ナルトは雪の上で力なく笑う。
―――先生。カカシ先生…
そして、意識を手放した。
≪
top
back
next
≫
作者余談・・・
雪崩ってこれぐらいのことでそうそう起きませんよね?(笑)
後から気付いた…というよりも、失敗に気付いたんで辻褄が合うように直しておこうと考える青川デス。でも無理かも。<オイ