初触




“ねぇ、先生。オレってば変なのかなあ・・・”



 ふと思って、訊きたくなった。
 だけど、訊けずにいた、この質問。
 今日こそは・・・と思って意気込んでいたのに………






    ++初触〜茎〜++  01







 静かな、しんしんとした空気が辺りを包み、
 冷たくやわらかい白いものを踏みしめる音だけが、空気へと振動していた。

 時折、ぱさりっと木の枝に降り積もったそれが、同じ色をしたそれへ吸い込まれて行くように落ちる。

 そんな中、木の葉の里を出た四人は軽装ながらも足取りよく、案内地図一つないこの雪に埋もれた山道を歩いていた。

「ねえ〜、まだぁ?先生もう着くって言ってたじゃない」
「ああ…サクラ、あと少しだ。もうちょっとがんばれぇ〜」

 下忍第七班引率を任されている上忍、カカシは生徒であるサクラの可愛い不満を軽く返すと、前方を行く二人の後姿を見遣った。

「おお〜い。あんま先を行くなよぉ。お前らだけじゃないんだからなあ」


 言いながらも、この注意はあんまり意味を成さないものだと知っているカカシはズボンに手を突っ込んだまま、気の入らない声で、サクラと同じく生意気ながらにも可愛い自分の生徒であるナルトとサスケに注意を促した。


「わかってるってばよ」
 
 それへ、カカシの注意に御座なりに答えたナルトは二人を振り返る。
 しかも心浮きだった様子でだ。

 そして、隣にいたサスケに声を掛けられ、何やら耳元で言われると、


「あっ!ああぁぁっ
――!!」

 ナルトは所かまわずも大きな声を上げて、後ろの二人を振り返った。

「あった!あったってばよっ!カカシ先生、サクラちゃん」
「っ!バカ、このウスラトンカチっっ!」

 声の大きさに思わず耳をふさいだサスケはナルトの口元を押さえた。
 『ココ』での声の大きさの重大さを解っていないようだ。

 声の大きさだけではない。
 あらゆる物音の大きさがここでは危険だった。

「だって、だってよぉ。あそこに…っ」
「いいから黙れ、このドベっ」

 必死で押さえようとするサスケの気持ちを知ってか知らずか、ナルトは邪魔な手を除けると、また大きな声を上げる。

 さすがに黙って聞き流していたカカシも、二度、三度と大きな音を立てるナルトに手を伸ばす。

「ナルト。ちょっと黙ってろ。ハシャギたい気持ちは分かったから」
「なっ…、だって…!!」

 ナルトたちに追いついたカカシはサスケの代わりにナルトの口を押さえた。
 サスケに続いてカカシにまで。

 理不尽な仕打ちに言い募ろうとするナルトへカカシは眼で押しとどめる。

「…っ…」

 両眼でなくとも左眼を封印した、右眼だけでの眼圧はナルトを黙らせる程の力があった。
 幾度にも死線を越えてきた忍びの眼力である。

 ナルトはその視線から逃れるように俯く。
 頭ごなしに怒られるよりもよっぽど、キツイ。

 それに、ナルトはカカシにそんな眼で見られたくなかったし、見られるのが一番堪えられなかった。


「ごめん…、先生…。だって、オレってばこんなの
―――
「先生っ!後ろっ」

 ナルトのセリフに重なるように響き渡るサクラの悲鳴。
 その後になんて続くのだったか、その場にいた三人は知らない。


 何故なら、ナルトが口にしようとした時、それは起こったのだから。





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作者余談・・・
何がしたかったんだろう・・・・現在(いま)なってそう思います。


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