1の愛情から                          









2.目撃







 一瞬、何が起ったのか分からなかった。
「音瀬っ」
 危ない、と誰かに注意された時にはもう気づくのが遅かったのだと思う。

だって、次に目を覚ました時に見えた天井はさっきまでいた体育館のとは違うから。

「ん…っ、」
 ここは何処だろうと思い、身体を起こすと頭に鈍い痛みと胃の奥にキリっとしたモノが襲った。
「っつぅ…」
 痛みに顔を顰めた時、勢いよく仕切られていたカーテンが音を立てて開けられた。
「あら、起きたの」
 独特のにおいが空に舞う。
 開け放たれた仕切りにいたのは白衣を着た、中年の女性だった。
 それで自分が何処にいるのかが分かった。
「身体の具合はもう大丈夫かしら」
 柔らかい物腰で体調を訊いてくる中年の女性は保健医だと分かる。
「あの。どうして?」
「あなた授業中に倒れたのよ、覚えてない?」
 手元を見るとまだジャージのままの自分の姿が目に入る。
「あっ」
 焦る郁に保健医は微かに笑みを浮かべ、溜め息をついた。
「クラスの子があなたをここまで運んできてくれたのよ。後でお礼を言っておきなさいね」
「…はい」
 何か母親に言われているような感触に郁はくすぐったそうに目を細めた。
「午後はもう休んでおきなさい。あまり無理をしては壊してしまうわよ、身体」
「はい」
 素直に頷き、郁はシーツに潜り込む。
 すぐに睡魔はやってきた。



 混沌とするまどろみの中。
 記憶が(さかのぼ)っていく…。


「分からないかな。君は私に弱みを握られたんだよ…、ねえ?音瀬郁君」 


 弱みを握られたその事実が頭の中で何度も反芻され、意味が理解出来る頃。
 外を見ればいつの間にか発進していたらしい。
 見覚えのある風景がどんどん過ぎていく。焦った郁はキッと男を睨みすえた。
 これから何処に連れて行くというのだろう、この男は。

「君の疑問にまず一つ答えてあげよう。どういうつもりか。それは君が犯罪を犯そうとしていたからだ」
「…証拠は」
「ないね。しかしだ、郁。君はそうとう手慣れているように見えたんだけど、アレが初めてじゃないんだろう。どう、違いはない?」
「…アレ?」
 郁はつい、と目を男から窓の外へと逸らす。

「往生際が悪いな。あのコンビニでしようとしていたことだよ」
 クスリ、と笑われ郁は眉を顰める。軽く足掻いてみたけれど、男には全てがお見通しらしい。
 悔しい気持ちでいっぱいになった。

「それで、警察に連れて行くんですか」
「まさか。それだったらわざわざ君を連れてきやしないよ。その場で店の従業員に引き渡している」
 だったらどこへ?∴閧ノはこの男の真意が測りかねた。
「さて、郁。君は私にとって見ず知らずっていうわけではないんだよ」
「っ?」
「君は私のおとうとだ」
「えっ?」
「正しくはこれから家族となる、血の繋がらない義理の弟となるんだよ。君は」
「…なっに、いって…

 男の言葉に頭が混乱する。
「君のお母さん、今入院中だろう?私の父は彼女の主治医でね」
 知ってる…分かってる…。
 郁はその母親の見舞いの帰りの途中だった。そして、彼女が再婚をすることも知っていた。
 郁はその再婚に反対はしていない。寧ろ喜んでいた。
 幼い頃に亡くした父の代わり、ここまで育ててくれたのだ。
 彼女の幸せを邪魔する気は毛頭ない。
 しかし、再婚相手が母親を担当する医者だとは知らなかった。
 こんな大きな子供がいることも。

「っんで、そんな…」
 いきなりすぎて郁の頭が混乱する。
 それなのに、
「婚姻届は来週にでも出すらしい。性急だけど、なんでも父は君を今日から我が家に呼びたいらしいよ。父は君の事を凄く気に入っているみたいだ。 だから、今一人暮らしをしている君を心配している」

 ちらり、と横目で男は緊張して強張った郁を見る。
 男は酷薄そうなその唇に笑みを乗せた。
「無理に。とは言ってないけれどね、まさか断らないだろう。
 君は母親の幸せを願っているようだしね」
「…っ!」

 脅しだっ。これは脅しなんだ!
 断ればこの男は郁の起こそうとしていた罪と余罪を母親の伴侶となる彼に言うのだろう。
 そうなれば、この再婚はなかったことにさせられるかもしれない。
 郁は男との接触で疲れた精神でそう考え結び付けた。
 弱みを二重に握られ、郁は男の言うとおりにするしかない。そう思った。


 この時もう少し郁に余裕があれば気づけれたかもしれない。
 子持ちの未亡人となった、しかも重い病気に掛かっている母親を妻に。
 と考えた寛容な男が万引きという犯罪を行ったというだけで結婚を白紙にするなどとはあり得ない、ということを。

 郁は諦めたように息を吐いた。
「分かった。あなたの言うとおりにする」
 男は面白そうに眉を上げる。
「あなた、じゃない。俺の名前は久遠巧(くおんたくみ)だ」
 負けに屈した郁に久遠は私≠ニいう一人称から俺≠ヨと変えた。
「くおん、たくみ…」
 確かめるように郁は繰り返した。
「物分かりのいい義弟でよかったよ、郁」
 ククっと噛み締めるように久遠は嗤う。
 郁は知らなかったのだ。この時の肯定の(こた)えの本当の意味を。






 キーンコーン、カーンコーン。
 と、全ての授業が終わる合図が鳴る。
 いつもなら昼食と軽い運動の代わりとなっている体育の後では、しっかり睡眠をとっている悌也だったのが今日は違っていた。
 ぱっちりと目を開けてある一点を見ていた。

 身に入っていないのは周りから見ても明らかだったのだが、それを特に言われるでもなく授業は終わった。

 六限目の担当だった物理の先生が何かを言った後、すれ違うようにして担任が教室に入った。
 そろそろ白髪が目立ってきた担任はざわめき浮き足立った生徒を一言で黙らせ、席に着かせた。
 上手い具合に生徒をよく動かさせているものだと悌也は思う。
 悌也も他の先生相手では茶化して、ずるずると先延ばしにして言うことを聴かなかったが、
 この担任、島崎にはどうしてか何も言えず素直に従ってしまう。

「先生ぇ〜?」
「なんだ?流回」
 連絡事項を伝える島崎に悌也は途中、手を挙げた。
 島崎は特に咎めもせず、話を促す。
「音瀬大丈夫なんっすか」

 六限目が始まってからも教室に戻ってこなかった郁が気になっていた。
 気になって、居眠りどころじゃなくなるほどに。
 たった一人のクラスメイトに対してそうなる自分に戸惑いながらも、悌也は言った。

「ああ、音瀬か。大丈夫だ。軽い脳震盪だと。まだ保健室で眠っているよ」
「ふぅん…」
 島崎の答えに悌也は鼻を鳴らした。

 なんだ、良かった。どっか悪いのかと思った

 頭の後ろで手を組み悌也はもうそれ以上は何も言わず、短いホームルームが終わるのを待った。
 最後の挨拶をし、皆それぞれが教室を後にする中悌也は郁の机を見た。
 授業も居眠りもそっちのけでずっと見ていた場所だ。
 脱ぎ置かれ、畳まれた制服がまだ机の上にある。
 鞄も横に掛けられたままだ。

「……」
 少し思案するように頭を保健室のある方角へ巡らし、また机の上の着替えを見る。
 悌也はスタスタと郁の机に近づき、それら残っている荷物を手に取った。
「持ってってやるか」
 保健室へと向かった。






「!!」
 ガバッ!と、いきおいよく郁は起きた。
 うなされていたらしい。額や背中、(わき)の下に嫌な汗を掻いて、べとべとで気持ち悪い。
 ハアハアという自分の忙しない息遣いに、郁は滅入りそうだった。

 あれから大分時間が経っているのだろう。
 薄暗い保健室。灯りといえばカーテンの隙間から覗く、沈みかけの太陽の明りだけだった。
 電気が点いていないということは、保健医はこの部屋を出て長く帰ってきていないのだろう。

 郁は、ベッドから降りた。
 咽喉の渇きを覚え保健室内にあった水道からコップに水を注ぐ。
 ごくっと音を立てて一気に飲み干す。
 瞬時に乾いていた粘膜に潤いが染み込んでいった。
 郁はコップを置き、深い溜め息を逆光となって足元に出来た影に落とした。

「なんで、いまさらあんなこと…」
 さっき見た夢の所為で気持ちが落ち着かない。
 郁はそれを抑えようと、ベッドのほうへ足をむけた。その時、

「あんなことって?」
「!」

 驚いた。
 開いた保健室のドア近くに佇む長身の影。
 その影がゆっくり部屋に入ってくる。
 郁はここにいるはずのない義兄久遠の姿に一瞬息が詰まった。
「なんで…?」
 ぴっしりとスーツを着込んだ久遠の姿を捉え、恐る恐る郁は小さく呟いた。

 久遠は郁の呟きに極優しそうに目を細め言う。
「学校のほうから連絡があってね。授業中倒れたんだって?心配だから迎えに来たんだよ」
 優しい、何処にでもいるような兄を気取りながら言う久遠に郁は先から痛む胃がツキツキと痛みを増したのを感じた。

「わざわざ、構いません。仕事中だったんでしょう」
 少し突き放すように言う郁に久遠は殊更優しい声音で答えた。
「もう終わってるよ。仕事は速いからね」
「…」
 眉をグッと寄せる。
 仕事はもう終わっていると聞かされ、何も言えなくなる。
「郁」
 郁の身体がビクリと揺れる。
 何も言わない郁の近くへ、いつの間にか寄って来ていた久遠は囁くように郁の名を口にした。

「今ここでしたら凄く燃えるだろうね」
「っ!」
 とんでもないことを言われたかのように郁はバッと勢いよく、久遠の顔を振り仰いだ。
「あんたは何を言って…っ」
「しようか郁」
「だからっ、ここは…っ」
 やめようっ、とにおわせて久遠の腕を掴むが言い切る前に言葉尻を取られる。

「ああ、学校だな。誰か来るかもしれないし、通りかかるかもしれない。
 でもそれがどうかしたか?」
「!」

 人が見れば心奪われる笑顔で残酷なことを言う。
 絶句する郁に久遠はせせら笑うかのように唇に弧を描いた。
 久遠には道徳心というものが何処か欠如しているのかもしれない。
 何度も、出会った当初から見せられていたその笑顔に何度郁は心を痛めたかは分からない。
 ただ、慣れることはないのだろうと心の片隅で思った。

「郁。おいで」
 抵抗をやめ項垂れた郁を久遠はベッドに腰掛け、引き寄せる。
 そして郁を床に(ひざまず)かせた。
 郁は唇を噛み締め観念したかのように久遠のズボンのチャックを開けた。
 そして、おずおずと彼のモノを引き出し、口をつけた。

「んっ…」
 まだ柔らかいソレを手で持ち上げ下から上へ舐め上げる。
 何度目になるか分からないほど行われてきたこの一方的な行為。
 これが最近郁を(さいな)ませている原因そのものだった。
 郁が脅されたあの日。悪夢には続きがあった。
 あろうことにか、久遠は郁に性的欲求を処理させる奴隷のような玩具になれと言ってきたのだ。
 郁には理解出来なかった。
 どうして自分が、と。
 ましてや自分は男である。
 その男が男相手に何故?郁の疑問は尤もだった。
 もし、自分が女だったとしたら?分からなくもない。
 いや、分かりたくもなかったが。

 どうして、と何度(たず)ねただろう。イヤだ、と何度首を振っただろう。 悪い冗談だと思った。
 願った。
 だが、久遠は本気だった。一度捕らわれた郁は振り切ることも出来ず、深い沼へと引きずり落とされた。

 幾度か舐めているうちに手の中にあるものが段々と硬度を増し、起ち上がってきた。
 久遠は郁の髪へ手を伸ばし、撫でた。
 それが合図だったかのように郁は先端をちゅっと音を立てて吸うと、今度はソレを口に含む。
 久遠に教え込まれたとおり郁はやっていた。
 久遠に会わなければきっと、いや絶対に。男のモノを舐めるなんてことは一生やってこなかっただろう。
 郁はそう思うと普段押し込めているやるせなさに涙が零れそうだった。

「ぅんっ……んっ、ん。……は、ぁ」
 咽喉を圧迫する息苦しさに郁は一度久遠のモノから口を外す。
 怒張を増し、十分に硬度を持ったソレは大きく反り返っていた。
 人のものなんか見て比べたことなどなかったが、久遠のモノは標準より大きいのだろう。
 息を吐き、口に含みきれないほど大きく育ったモノを再び郁は口に招き入れた。
 久遠は郁の柔らかい髪に絡ませた手を撫でるように動かし、先を促した。

「は、ふっ…ん…」
 それに応えるように(つたな)いながらにも郁は舌を絡める。
 くびれた部分を舌先で、出っ張ったカリの部分を()むように愛撫する。
「んっ…」
 それが良かったのか久遠は小さく声を漏らした。ここがイイのかと思い、郁は重点的にソコを責めた。
 小穴から滲み出してくる透明な雫に嫌悪しながらも丁寧にそれを舐め取った。
「そう…上手くなった」

 何時、誰が保健室に入ってくるか分からない。
 部活に精を出している生徒もいるのだし、何より保健医が帰ってくるかもしれない。
 そうすれば郁が男相手に何をしているかは一目瞭然だ。
 そうなったら…、と考えて郁は泣きそうになって必死で頭から振り払った。
「んんっ、…んぁ、ふぅん……っ」

 早くイって欲しい。
 早くこの拷問にも似た責め苦から逃れたい。
 その一心で郁は愛撫を続けた。





 陽が沈むのが早くなってきたな。

 悌也は二人分の荷物を抱えながら、誰もいない夕暮れ時の廊下を歩いていた。
 夕焼けに染まったグラウンドでは運動部の生徒が声を出して、悌也の苦手とするランニングをしていた。
 それを横目にしながら途中数人の生徒と通りすがり、やっとのことで教室から一番遠い棟にある保健室に着いた。

 ろくすっぽも話したこともない、今日初めてちゃんと話した相手へわざわざ荷物を持ってきた自分を見下ろし、悌也は笑った。

 閉まった戸の前で保健室にいる郁になんと声を掛けたらいいものか…。
 悌也は少し緊張した面持ちで戸に手をかけた。

「失礼します。…って、あれ?」 
寝ているかもしれない郁を気遣ってなるべく小さな声で入室するものの、誰からも返事が返ってこず、悌也は首を傾げる。
 誰もいないのだろうか?
 いや、そんなはずはないと思い悌也は部屋を大きなボードで仕切られた、ベッドのある奥へと足を向けた。
 すると、人影が見えた。
 グラウンドに向かって一番窓際に位置するカーテンに。

 二つある影に悌也は安堵する。
 良かった。すれ違わなくて
 一つは当然保健室に世話になっている郁のものだろうと、そしてもう一つの影は郁に付き添っている保健医だろう、と容易に考えついた。
 悌也は着替えと荷物を渡すため声を掛けようと影に近づく。

「ん、はあ…っ」
「!?」

 しかし、一歩踏み込んだところでそれ以上進むことも声を発することも出来なかった。
 それは、苦しいような、熱に浮かされて喘ぐような呻き声と淫らな水音が聞こえてきたから。

 耳朶(じだ)をモロに直撃するいやらしい音。
 開いたカーテンが冷たい風によって捲れ、二つの影の正体が顕わになる。

 これは…誰だ…

 思わず、眼を逸らした悌也は暫くそこから動くことが出来ずにいた。
 彼の目に飛び込んできた映像は彼自身に多大なる衝撃を与えていた。

 今日初めてといって言い彼と会話をした。
 友人から、クラスメイトから羨ましがられた対象の人。
 優しく柔らかく笑う彼をからかって、途方に暮れてしまったその顔。
 そのどれとも結びつかない表情(かお)をした郁がそこにいた。

 保健室内に入った悌也に気づかないのか郁は悌也の存在を気にせず、男のものに奉仕を続けている。
 眉を顰め、苦しいのか眦に涙を溜め時折呻くような熱い吐息を吐き出し、淫らに男の肉棒に舌を絡める淫猥な、その表情。
 普段昼間は咲かない花が夜だけに花開く。
 そんなような、余りにも違う変化に悌也は気持ち悪さや嫌悪感を抱くよりも熱く、煮え滾ったものが胃の淵から沸き起こってくるのを感じた。

 なんだよ、これっ。なんで音瀬がこんなこと…!

 相手は誰なのか。そしてどうして郁が男のものを咥えているのか。
 悌也の中で思いつく限りの疑問が頭の中を駆け巡った。

「ん、ぁはっ。…ぅ、んう〜…」
 悌也が混乱する間にも、淫らな行為は続いている。
 悩む悌也を嘲笑(あざわら)うかのよう、くちゃり。と殊更いやらしい音が立つ。
 それと同時に郁の(まなじり)からつぅと一筋の雫が落下した。
 白い肌に流れ落ちるその美しさに悌也は思考が止まった。
 どくどくと鳴る血流の音が五月蝿い。

 郁の涙を追うように、ここからではカーテンの仕切りにより見えない相手の手が滑らかな郁の頬を撫でた。
 やらせていることは残酷なのにその仕草はやけに優しい愛撫のようなものに見える。
 その一連の動作を食い入るように見ていた悌也は強い視線を感じ、ふと視線そこに上げると。
 先から気になっていた相手が悌也をまっすぐに見ていた。
 鼻梁(びりょう)の整った、郁とも悌也とも違った端正な顔立ちが覗かれる。目が合うと男は頬を歪め、ニヤリと笑った。

「っ…!」
 その瞬間(はや)る血流が一気に一点へ集まった。
 カッと身体が熱くなる。
 見られているのを知っていて尚且つ行為を続行している。
 男は第三者がいるということに気にする風でもなく、それすらも愉しんでいた。
 ゾクリっと身体が戦慄(わなな)く。

 音瀬は…
 気づいているんだろうか?と思い、再度彼を悌也は見た。
 見ればただただ郁は一所懸命ある一定の動作を続けていた。
 男に奉仕することにだけ熱を注いでいる、そんな感じだった。
 欲望という汚いものから程遠い清廉さを持っていた郁のその艶やかな顔を見て、悌也の下半身が熱を持ち始める。

「?!」
 自分の身体の変化が信じられなかった。
 これ以上ここにいると悌也はワケの分からないことを大声で発してしまいそうだった。

 悌也は後ずさり、保健室を飛び出した。

「ちくしょうっ。なんなんだっ…?」





 バタバタ、と大きな足音を立てながら去っていった少年の後姿を見送りながら、久遠は低く咽喉の奥で嗤った。
 そんな足音と嗤いに気づかないまま、依然久遠足元に跪いている郁を久遠は見下ろす。

「大したもんだよ」
 今のこの関係を強要し始めた頃から比べて、郁の舌技は格段に上がった。
 何も知らなかった真っ白な状態を自分色に染める。
 それは久遠の中にある征服欲と嗜虐心を大いに満たしてくれた。

「んっ・・・!」
 限界の近かった久遠のものに郁が柔く歯を立てた。
 久遠の性感帯を強く刺激され小さく声を立てた途端、屹立から勢いよく白濁とした液体が郁の口の中に注ぎこまれた。
「んぅう〜っ…」
 どくっと流れ込んできた青臭く苦いものから逃げる郁の頭を強く掴み、久遠は難なく抵抗を封じ込めた。

「ふ、ぅっ」
 ごくり、と数度咽喉を鳴らして久遠の放ったものを飲み込んだ郁から久遠は自分のものを引き出し、ズボンの中に仕舞う。
 そして、力なく崩れ落ち小さくえづく郁を見下ろした。
 授業中に倒れたと聞いていた久遠は何の授業をしていたかは知らない。
 だが、ジャージ姿の郁を見てすぐに分かった。
「……」
 突然現れた少年。
 彼はきっと郁の同級生だろうと容易に窺い知れた。彼の手の中には郁のものと思われる制服があった。

「面白くなってきたな…」
 これから起こる一波乱に久遠は笑みを刻む。

 郁は独りごちる久遠を不審に思い、顔を上げた。
 そして身体が強張った。
 
 そこには、思いのまま蹂躙する。それが楽しくて仕方がない、といった表情を浮かべている義兄がいた。


    


                    続く


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 はい。続くんですよね。
 今回はナニなアレなシーンを少しいれれて、満足しています。
 知り合いに見られたら、何て言われるんでしょうね。
 ま、いっか。
 もともとこういうヤツだと知っている人ばかりですから。
 大半が。
 しかし、第二章やたら長いな・・・・。

       ’04 03 青川卓石
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