今でも、一番好きだよ でも・・・他の人を愛してしまってもいいですか? 最愛の人へ 登紀が死んでから、世界が変わってしまった どうやって今まで生きていたのか、わからなくなった 誰とも行動をともにすることもなくなり、ただ日々を消化していた そんな日々の中で、登紀の新たな居場所となるはずだった大学へと進んだ それはどこかで登紀を探していたからなのかもしれない 毎日は、止まることなく過ぎていく どんなに探しても登紀はいなかった わかっていたはずのことなのに、それが色濃く心を支配していく どんなに泣いても どんなに名前を呼んでも 登紀は抱きしめてさえくれなかった 「また明日って笑ってたくせに」 最後に見た登紀の顔は、いつもと何も変わらなかったのに 俺はいったい登紀のどこを見ていたんだろう 永遠を信じてたわけじゃないけど、ずっと傍にいるんだと …………信じてた 「登紀・・・」 君は今、俺の隣にいてくれてるんだろうか? それとも少しは死んだことを後悔してるんだろうか? 大学1年が終わりにさしかかった頃、家庭教師のバイトを始め、 3人の高校生を担当することになった その中に、相原トオキはいた トオキは、高校生の頃の登紀に似ていた 勉強ができて、クラスの中心人物で ― 俺を見ていた トオキと一緒にいると、まるで登紀が一緒にいるような錯覚に陥った 駄目だとわかっているのに、気がつけば登紀を重ねてしまっていた 「先生って、好きな人いる?」 一瞬、何を聞かれたのかわからなかった 胸がしめつけられるように痛かった けれど、トオキの目に見つめられると「今は、いない」そう答えてしまっていた 登紀のことが忘れられないはずなのに 登紀のことが今でも好きなはずなのに なぁ、登紀 俺はどうしたらいい? 日々を過ごす中で、俺は2人の中で揺れていた でも、登紀さえも幸せにすることができなかった俺が トオキを好きになる資格なんてないんだと思い始めた トオキの名前が呼べない 呼びたくても、呼べない 登紀と同じ名前だから・・・また悪夢を繰り返しそうで 「大学に合格したらさ、僕と付き合ってくれる?僕、先生のこと好きなんだ」 トオキは真剣な目で見つめていた 「いいよ」 胸が大きく高鳴ったけれど、それを悟られないように頷くだけで、俺は精一杯だった 『俺と本気で付き合おう。ひいろのこと好きなんだ』 中学の終わり、登紀はそう言って桜の下で俺をそっと抱きしめた 『男同士だけど、本気だよ』 真剣な目をして、俺を見つめてた 登紀・・・君は俺と付き合って幸せだった? トオキは大学に合格した そして俺は約束通り、トオキの恋人になった 未だに名前を呼べないまま トオキが俺のことを「知明さん」と呼んでも 俺はなんて返したらいいのかわからない そんな時はいつも、トオキは淋しげな目をして笑った ずっとずっとトオキを代わりにしているような自分が嫌でしょうがないのに 別れを告げた方がトオキにとってはいいことなんだとわかっているのに トオキがいない生活をもう考えられない自分がいる なんて嫌な人間なんだろう トオキは俺を愛してくれているのに 俺は・・・ちゃんと愛してやれてない 季節は巡っていく そんな俺を置き去りにして トオキの名前を呼べないのは、登紀がまだ心にいるからなのか それとも、ただ自分が臆病なのかわからない 名前を呼んだ瞬間、トオキを本当の代わりにしてしまいそうな気がする けれど、トオキの笑顔も見たい 本当の笑顔も 登紀、君以上に彼を好きになってもいいですか? 愛してもいいですか? トオキが遠くで女の子と笑っていた 俺といる時みたいな淋しげな笑顔じゃなく 本当の笑顔で トオキは幸せになるべきだ だからもう、俺から解放してやろう 本当に心から笑える相手と、幸せになってほしい 桜並木の下を手をつないで歩いた もうこれが最後なんだと思うと、どうしようもなく足が前に進まないけれど 先へ進まなきゃいけない 「あのさ・・・」 立ち止まり、トオキを見上げた これでトオキの顔を見るのは最後だから、しっかり覚えておこう 「もう・・・やめにしないか?」 「何を?」 トオキも薄々わかっていたんだろう、そっと視線がはずされた 「別れよう、俺たち」 胸がしめつけられるように痛い ・・・でも、これでいいんだ 「・・・どうして?」 「わかってるんだろ?」 ずっと気づいていただろう、本当は ずっと傷ついてただろう 「本当に愛してやれなくて、ごめんな」 ―――好きだよ 「さよなら」 ―――幸せになれよ 「トオキ」 ―――愛してる つないでいた手をそっとほどき、トオキに背を向けて歩き出す ホントは愛してるよ、トオキ でも俺じゃ、幸せにしてやれない ごめんな さようなら さようなら 最愛の人 どうか、幸せに 終 |
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2004年5月12日 |