好きだな

何かを見てるときのお前の顔
まるでこの世にお前しかいないみたいに思えて…
俺さえも…いないみたいに思えて




君に逢いたいよ…




手を伸ばせば、届く距離にいた     昨日まで
隣で笑ってた                 昨日まで
また明日って手を振った         昨日



―なのにどうして、君はいないんだろう




高校三年の秋

同じクラスの鮎川 登紀(あゆかわ とおき)がマンションの屋上から飛び降りた
即死だった


クラスでも人気者だった
先生にも信頼されていた


―なのに、何故?


大学も推薦で決まっていた
かわいい彼女だっていた


―なのに、何故?







霧雨の中を制服を着た男女が、一ヵ所だけ見つめていた

白い花に埋まった 登紀の写真を






俺は登紀の幼馴染だった
小学校からの腐れ縁だった
高校に入ってから素行の悪くなった俺を、本当に理解していたのは
たぶん先生でもなく親でもなく


 登紀だった


何も言わず、ただ俺を見ていた



登紀は俺のことを「ひいろ」と呼んだ
名前は川瀬 知明(かわせ ともあき)だから全然関係ないのに

昔、夕日を一緒に見たときに 色素の薄い俺の髪の毛が緋色に染まったのが綺麗だからと言っていた
登紀は、「ひいろ以上に綺麗なものはないよ」とよく笑っていた
友達以上のスキンシップをしてきながら


     つまり登紀と俺はそういう関係だった




どっちからとかそういうことじゃなく、2人でいることが自然だった
俺がどんなに素行の悪いやつと一緒にいても
登紀がかわいい女の子と一緒にいても
お互いが半身であるかのように求めていて、お互いという帰る場所があった


いつも2人でくだらない話をしたり、ゲームをしたり

深い口づけをしたり、ベットになだれこんだり

ほぼ毎日、2人きりの時間があった
変化なんて別に求めてなかった
ただずっと隣で笑っていたかった




昨日は久しぶりに2人で夕日を見に行った
ただ何を話すわけではなく、ただ海に落ちていく夕日を見つめていた


「好きだな、俺」

「ん?」

「何かを見てるときのひいろの顔」


夕日が水平線と交わり、消えていく様を見つめながら、
登紀の言葉に耳を傾けていた


「まるで、この世にお前しかいないみたいで
音もなくただ…自然の一部になっていくお前見てると、俺さえもいないみたいに思えて」

登紀は俺を抱きよせ、「俺をおいてかないでくれよ」と静かに笑った

「お前をおいてくなんて、んなことするわけねーだろ!
俺は…お前がいなきゃだめなんだからな」

ガツンっと頭突きをくらわせると、登紀の腕の中へとすりよった

「俺は、お前のこと本気なんだからな」


「…ありがと」

登紀はそう言って、今度は力強く抱きしめた

暗くなった道を手をつないで歩いた

駅で、「また明日な」と手を振ると
「また明日」と笑って、手を振りかえしていた


    “また明日”が来ると信じてた










深夜にメールの着信音がなった
でも俺はどうしても眠っていたくて、目を開けることができなかった


    夢の中で登紀が笑っていたから














朝早くメールを読んだ

めったにメールなんかしてこないクラスメイトからで











『鮎川が自殺した』










携帯が手のひらから滑り落ちていった

日の出はもう過ぎているから明るいはずなのに



視界は何故か真っ暗だった







また明日って笑って手を振った君は 今 どこにいるの?


君がいなきゃダメだといったのに どうして君はここにいないの?










君に逢いたいよ…


もう一度











そうしたらもう 絶対離れないのに…















                                   終





2004年4月29日
秋鈴