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桜舞う4月
寮から学校へと続く桜並木の下を歩く多くの仲間たち
これからの3年間へと期待と不安で胸をいっぱいにしながら、
早坂順平はゆっくりと新しい生活の中へと1人溶け込んでいくはずだった
…はずだったのにっ!
「何で、光樹もいんね〜ん!!」
たった1人の生活の中で、新しい自分に出会えるチャンスだと思っていたのに
順平の野望は入学1日目にして、早くも崩れてしまっていた
「今まで気がつかへん順平がおかしいねん」
光樹は手のひらに落ちてきた桜の花びらをふっと吹くと、なんともいえない顔をした
「一緒に受験したやないか」
「そやけど〜…」
光樹は『合格した』なんて全く言わなかったし(落ちるはずもないんだけれど)、
もし受かっていても地元の進学校に行くものだと思っていた
「俺は『落ちた』なんて言うてへんし、この高校にきぃへんなんて言うてないやろ」
心の中まですべて見透かしたような笑みを浮かべると、光樹は腕時計を指差した
「入学式に遅れてまうで」
「あっ!ほんまや! 行こっ、光樹」
光樹は双子の兄貴で、勉強もスポーツも出来る
弟(オレ)から見ても、めちゃくちゃかっこいい奴です
* * * * *
ここは東京の男子校
高校進学の段階で地元・大阪を離れたのは、
俺を甘やかすのが好きな両親から自立するため
それから、自分の気持ちを見直すため
もう1人の兄貴・冬和が、東京で就職してマンションを借りたから
そこで居候させてもらおうと思っていたのに、
いつの間にか荷物は全部は寮に送られていて、手続きも終わっていたという情けなさ
まぁ、全部親まかせにしていたせいもあるけれど…
とにもかくにも、俺の新しい生活が始まりました!
*
「だぁ〜。つっかれたぁ〜!!」
ドアを開けた途端、俺はベッドへとダイブした
「なに言うてんねん。疲れたのは俺の方やって」
そんな俺とは対照的に、光樹は制服をきちんとハンガーにかけながら苦笑いした
「それもそうやなぁ〜」
光樹はさっきまで行われていた入学式で、新入生代表挨拶をし
ホームルームではクラス委員長に選ばれたりと大変だった
「じゃあ、俺が光樹の分の教科書も貰ってきたるよ」
寮生は、わざわざ街の本屋まで教科書を買いに行く必要はなく
寮内の食堂で配布されるらしいのだ
「きっと重いから、かまへんよ。後で自分で取りにいくし」
「大丈夫やって!俺、力持ちやし!無理やと思ったら2回に分けて持ってくるし、な?」
微妙な顔をする光樹から、なんとか生徒手帳を預かると、部屋を飛び出した
「善は急げっていうもんなぁ」
3階から1階まで、人のまばらな階段を駆けおりると
食堂へとむかった
*
「1年A組の早坂順平と早坂光樹の分、お願いしま〜す」
2人分の生徒手帳を差し出すと、係の先輩が真っ白だったページに確認のハンを押して
1人分が一纏めにされた教科書の束を持ってきてくれた
「け、結構あるんですねぇ…」
食堂を出ると、さっきあっという間に駆けおりたはずの階段が目の前に立ちはだかった
よしっ!と自分に気合を入れて、一段一段をゆっくりのぼっていく
「3階ってなんやねん!」
ぶつぶつと文句を言いながらも、やっと2階までたどりついた
多くの人数が行き来するなか、俺はあと1階分の階段を睨みつけた
「すっごい量だな〜。もしかしてそれ1人分だったりする?」
3階への1歩を踏み出そうとした時、ふいに頭上から声が降ってきた
顔をあげると、真新しい制服を着た奴が立っていた
「これは2人分やで」
「あっ、そーなんだ。よかった〜、1人分だったらどうしようかと思ったよ」
目の前の男は、本当にほっとしたような顔でニコニコと笑った
「お前…」
どこかで見たような顔だなと、まじまじとその顔を見つめた
「同じクラスの菱田郁。ちょうどお前の後ろの席だよ、早坂順平くん」
郁は、俺が持っていた教科書の束を1つ奪うと
3階への階段をのぼり始めた
「あっ、かまへんよ!」
いくら同じクラスといえども、まだたいして知らない奴にそんなに気を使ってくれなくてもいいのに、
郁は「いーんだって!」と足早に先を急ぐ
「ありがとうな。えっと…郁でかまへん?」
「別にいいよ。じゃあ俺は順平って呼ぶけど?」
「かまへんよ!郁も寮なんやな〜。1人部屋?」
「そうだよ。順平はもう1人の早坂と2人部屋?」
「うん」
初めてこの学校で出来た友達が、明るくて人に優しい郁でよかったと
会話をしながら思っていた
*
郁のおかげで身軽になって、あっという間に3階の自室に到着することが出来た
郁の部屋は、階段近くの同じ階で、後で部屋に遊びに行く約束もした
「光樹ー!たっだいま〜!」
両手がふさがっていて、ドアを開けられなかったから
足でガンガンとドアを蹴った
周りを通る奴や郁が一瞬ぎょっとしていたけど
しばらくの沈黙の後、ゆっくりとドアが開くと
中から眠そうな光樹が出てきた
「ごめん、寝とった?」
「いや……誰や?」
眠そうな顔から一変して、光樹は険しい顔で郁を見た
「同じクラスの菱田郁。教科書運ぶん手伝ってもらってん」
「それは、どうもありがとうな。ほら、順平入れや!」
光樹は冷たい笑顔で郁に礼をいい、教科書を受け取ると
俺の腕をつかんだ
「そないに乱暴にせんでも、入るっちゅうねん」
あやうく前にいる光樹の上に倒れこみそうになりながら、
部屋の中へと入った
「郁、ありがとうな。ほな、また後で」
自分で持っていた教科書を床におくと、
光樹の冷笑(初心者にはかなりきつい)のせいで固まってしまった郁に礼を言い、
ゆっくりとドアを閉めた
「ちょっと態度悪かったんちゃう?光樹」
教科書を備え付けの本棚へと整理しながら、ちょっと光樹に注意をする
いくらなんでも郁に対するあの態度はいかがなものだろう
「勝手に俺のテリトリーに入ってくる奴が悪いねん」
不機嫌丸出しで、光樹はさっそくクラス委員の仕事をしていた
「“テリトリー”て、お前は犬か!?(笑)」
「……わんっ……」
普通な顔をしてぼける光樹に、俺は思いっきりふきだしてしまった
新生活はこんな風にあっという間に過ぎていった
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後書きのような呟き。
光順のエセ関西弁をお許しくださいm(_ _)m 秋鈴。
2004年5月15日